所長からのメッセージ

資源植物科学研究所長
坂本 亘

 岡山大学の資源植物科学研究所(植物研)は、国立大学附置研究所・センター長会議を構成する全国の30国立大学にある99の附置研究所・センターの1つで、生物学系の中でも「植物科学」に特化した大学の研究機関として教育研究活動を展開しています。

 植物研は、今から100年ほど前の大正3年(1914年)に、倉敷紡績の創業家として多くの慈善事業に貢献した篤志家の大原孫三郎が設立した「財団法人大原奨農会農業研究所」を礎としています。第二次大戦後まもなく、新制大学として設立された岡山大学に移管され、いく度かの名称変更を経て現在に至っていますが、創立以来、植物研は倉敷市中心部に位置し、現在では1.5haの実験圃場をあわせ持つ岡山大学倉敷キャンパスとして研究教育に携わっています。また、岡山大学大学院環境生命科学研究科の協力講座「植物ストレス科学講座」として大学院教育にも参画しており、博士前期課程(生物資源科学専攻)および博士後期課程(農生命科学専攻)の大学院生を受け入れるとともに多くの修士学位・博士学位の修了者を国内外に輩出してきました。加えて、10年前の2009年に植物遺伝資源・ストレス科学の研究実績が認められ、2010年度より全国共同利用・共同研究拠点として研究者コミュニティを支援する活動も進めています。2012年からは倉敷ゲストハウスの宿泊施設も完備して、2018年度までに423件の共同研究を受け入れています。

 研究所の開所にあたり、大原孫三郎は「深遠なる学理を研究し之が実際的応用に依る農事の改善」であり「将に来る可き農業問題に対し貢献することが出来ますれば非常なる幸福である」と述べたとされています。設立初期には植物病理学、生物化学、害虫学、作物生理学、作物遺伝学の5部門が設置されました。その後、時代の変遷を経て研究体制は改編されましたが、附属大麦・野生植物資源研究センター所有の遺伝資源・さく葉標本の収集保存と利用、あるいは植物ストレス科学共同研究コアと次世代作物共同研究コアが展開する植物ストレス科学研究を通し、「劣悪な環境下でも食料生産を可能にするための研究開発と関連分野の人材育成」を理念に作物改良や機能利用の基盤研究を展開しています。

 21世紀には温暖化がますます進み、人口が90億を超えると予想される人類はこれまでに経験したことのない気象変動、それに伴う災害、環境汚染、またそれらにより引き起こされる食糧不足が懸念されています。例えば、20世紀の穀物増産を実現した「緑の革命」は、穀物の倒伏耐性に寄与した草丈の低い多収品種の導入により達成されましたが、一方で、大規模な灌漑や化学肥料の使用による環境への影響が懸念されることになりました。21世紀には、低肥料でも生育が旺盛な作物、光合成効率が上昇した作物、温度の変動などに強い丈夫な作物、などの改良が新たな緑の革命として期待されています。このような期待に応える植物科学研究として、環境ストレスや病害虫に強い作物の育成と生産性の向上、植物による機能性物質の開拓、バイオエネルギーの利活用、生物多様性の維持の研究が行われています。これらの研究を通して、植物研は、21世紀の持続的社会を達成するための目標であるSDGs (Sustainable Developmental Goals)に貢献する教育と研究を、世界に発信していく所存です。