第5回国際アクアポリン会議(2007年7月13-16日 奈良)に参加して
梅雨が明けないうちに台風4号が日本に接近・上陸するという想定外の状況のなか、日本で初めての国際アクアポリン会議が開催されました。過去4回はいずれもヨーロッパでの開催でしたから、ヨーロッパ外で最初の会議が日本だということからもアクアポリン研究における日本が果たしている役割の大きさがうかがい知れると思います。今大会のプレジデント・佐々木先生(東京医科歯科大)は、最初のアクアポリン(AQP1)の発見者でありノーベル賞受賞者であるアグリ博士と共同で2番目のアクアポリン(AQP2)を発見された方です。本会議では佐々木先生のリーダーシップのもと、動物、植物、微生物にいたるまですべての生き物におけるアクアポリンと水代謝に関係する研究者が結集し、世界の約20カ国から300人もの参加者で盛会となりました。心配された台風も2日目に少々強い雨をもたらしましたが会議に大きな影響はなく、3日目の野外パーティー(懇親会)もすばらしい日本庭園のなかで楽しむことができました。
【写真(撮影・構成):白武勝裕(名古屋大)】
初日は佐々木先生による開会講演に続き、Session 1: New
Function of Aquaporins とSession 2: Structure of Aquaporins がもたれました。2日目午前が植物アクアポリンのセッションで、5題の招待講演と一般参加からセレクトされた7題のショートスピーチがありました。このセッションは生研センター(英名:National Agriculture and Food Research Organization, Bio-oriented Technology
Research advancement Institution)との共催です(こちら参照)。ここで発表された演題は以下のとおりです。
Session 3: Aquaporins in Plant 1
KL04 Aquaporin Gating P. Kjellbom (Sweden)
KL05 Aquaporins Localized to ER Membrane in Arabidopsis Thaliana Maeshima (Japan)
FC06 Subcelullar Distribution and Physiological Characterization of McPIP1;4 R. Vera Estrella (Mexico)
FC07 The Role and Modifi cation Profi le of the N- and C-Terminal Tails of Plant Aquaporins Santoni (France)
FC08 Loss of AtTIP1;1 does Not Lead to Plant Death M.D. Schuessler (Denmark)
FC09 Membrane Transport of Arsenite and Other Uncharged Metalloids Through Aquaporins of Arabidopsis Thaliana G.P. Bienert (Denmark)
Session 4: Aquaporins in Plant 2
KL06 Roles of NIPs in Boron Uptake and Translocation in Arabidopsis and Rice T. Fujiwara (Japan)
KL07 A Rice Aquaporin Functions as a Silicon Transporter J.F. Ma (Japan)
KL08 Aquaporins Mediate the Transports of Essential Molecules in Plants Growing in Various Environments M. Katsuhara (Japan)
FC10 Thirty-three Rice Aquaporin Members: Their Expressions and Water Transport Activities J. Sakurai (Japan)
FC11 Anarerobiosis Induces Arabidopsis NIP2;1, A Nodulin-like Intrinsic Protein that Transports Lactic Acid W. Choi (USA)
FC12 Computational and Experimental Analysis of Small Solute Transport in Plant Aquaporins U. Ludewig (Germany)
同日午後にもMaurel (France)による招待講演 KL10 Plant Aquaporins: Regulation and Role in Roots, Seeds and Leavesがあり、さらにポスターセッションでは2日目に11題、3日目に10題の植物アクアポリンと水輸送に関する発表がありました。
植物アクアポリンでは水以外の輸送基質(アンモニア、ホウ酸、ケイ酸、乳酸、亜ヒ酸、アンチモン酸、過酸化水素、二酸化炭素)についての新知見が次々と報告されました。またリン酸化、ヒスチジン残基のプロトン化、メチル化、アクアポリン分子種間の相互作用(ヘテロテトラマー形成)などによるアクアポリンの活性化と細胞内トラフィッキングの制御機構、ER膜に局在するNIPやSIP分子種、原形質膜とエンドメンブレン間でPIPの局在部位が変化することによる膜の水透過性制御など、多彩な発現・調節機構が分子結晶構造解析のデータも交えてたいへん活発に議論されました。
会議では引き続き動物アクアポリンやヒトの病気との関係、さらに脳機能にもアクアポリンが関係しているらしいことなども紹介され、最終日にはノーベル賞受賞者アグリ博士の講演で成功裡に会議は幕を閉じました。動物のアクアポリン研究者と植物のアクアポリン研究者との情報交換も多くおこなわれ、また世界での植物アクアポリン研究がたいへん活況であることが強く印象つけられた4日間の会議でした。
(且原 記)