マイコレオウイルスで発見された特異なゲノムの変異

[著者] Tanaka, T., Eusebio-Cope, A., Sun, L., and Suzuki, N.

[論文タイトル] Mycoreovirus genome alterations: similarities to and differences from rearrangements reported for other reoviruses.

[掲載論文] Frontiers in Virology 3 (186) 1-8. doi: 10.3389/fmicb.2012.00186. 2012

[内容紹介]
レオウイルス科は最も大きな(色んな宿主に感染するメンバーを含む)科の一つで、15の属を持ち、病原としてまた基礎研究対象として重要なウイルスを含みます。科の特徴は、9−12本の分節dsRNAセグメントをゲノムに持ち、粒子は多重殻構造をとり、RNA合成工場と見なされる内殻にゲノムを包含することです。マイコレオウイルスも15の属の一つで、クリ胴枯病菌に感染するウイルス2種(Mycoreovirus 1 & 2)さらに白紋羽病菌に感染するウイルス1種(MyRV3)がこの属に含まれます。この属では他のレオウイルス科では認められない3つのタイプの変異が見つかり、大きな話題となっています。この総説では、風変わりな3種の変異について紹介しました。尚、掲載された雑誌(Frontiers in Virology)は、双方向性の「顔」の見える査読制度を取り入れたオンラインオンリー、オープンアクセスジャーナルです。
一つ目はMyRV3で、自然分離株に12本あったゲノムセグメント(S1-S12)が研究室継代中にS8が消失し11本に減少する変異です。宿主菌を人口培地で培養する限り、変異株の複製、病徴発現に影響を及ぼしません。レオウイルスでは内部欠失変異(後述)は多数見つかっていますが、その場合は末端配列を維持した短いセグメントが粒子化、転写され、維持されるゲノムセグメントの数に変化がありません。S8が完全に消失する点が他のレオウイルスと異なります。この解釈として、S8は自然界でウイルス生活環には欠かせない機能(例えば、媒介生物による水平伝搬)を担うのではないかと考えられています。
2つ目は、異種ウイルスのタンパク質がMyRV1のゲノム再編成(一種のRNA組換えで、大きな欠失、伸長を含む変異)を誘導する現象です。これまでも、他のレオウイルス、特に、ヒトに下痢を引き起こすロタウイルスあるいは植物病原性レオウイルスでゲノム再編成の例が多数報告されています。しかし、それらの場合、他のウイルスが関わらず、レオウイルスが宿中細胞あるいは個体中で増殖する過程で再編成が生じます。MyRV1の再編成は、異種の一本鎖RNAウイルス(ハイポウイルス、CHV1)との混合感染、あるいはCHV1の多機能性タンパク質p29の発現により、誘導される点が他の例と大きく異なります。これまで半数以上のMyRV1セグメントに再編成が導入され、変異セグメントを利用した機能解析に用いられています。また、その誘導機構の解析も進められており、今後の進展が楽しみです。
3つ目は、MyRV1で得られた2つのセグメントのORFを欠失した変異です。この変異株はS4とS10にコードされたORFの約80%の内部欠失をそれぞれ持つウイルス変異株2種の遺伝子再集合(リアソータント)により作成されました。リアソータントについては、インフルエンザが新しいNA(ノイラミニダーゼ)型あるいはHA(ヘマグルチニン)型の組み合わせが出現するときの機構です。ウイルスは最も小さいゲノムを持つ不完全生命体です。そのウイルスの11の遺伝子産物の中で、2つが欠損してもウイルス複製がほぼ正常に行われるとは大きな驚きとしてとらえられています。
(文責 植物・微生物相互作用グループ・鈴木 信弘)

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