もっと研究について知りたい! トピックスでは研究所の方々にインタビューして研究の"今"を伝えます。

植物の生長を支える葉緑体と

光合成・植物オルガネラ研究の

パイオニアを目指して

光環境応答研究グループ 教授 坂本先生

 
Q.現在の研究を始めたきっかけを教えて下さい

 高校では理数科だったので、物理、化学、生物、地学、全部必修でしたが、生物は一番苦手でした。でも、大学では農学部に進学し、「遺伝学」に惹かれ、迷わず放射線遺伝学という研究室に所属しました。当時はまだDNAとかゲノムといった言葉が市民権を得ていない時代でしたが、その理路整然とした学問体系と「遺伝学」という言葉に何となくロマンというか、研究の広がりを感じたのだと思います。大学院で与えられたテーマがイネのミトコンドリアゲノムに関する研究で、ハイブリッドライスを材料にした研究でした。ミトコンドリアと葉緑体は、細胞内共生に由来するオルガネラ(細胞内小器官のことです)で、それ自身が共生由来のゲノムDNAを持っています。それ以来、このミトコンドリアと葉緑体をずっと研究しています。大学院時代はイネで、アメリカで過ごしたポスドク時代はクラミドモナスという緑藻で、岡山大学資源生物科学研究所ではシロイヌナズナというモデル植物を使っています。ずっと植物ばかり研究してきました。
 なぜこの研究を、という理由をあえて探せと言われると困るのですが、やはり興味あるテーマに出会ったからだと思います。研究には理由ではなくて、「出会い」が重要なんだと思います。私の場合は、ミトコンドリアと葉緑体には細胞内共生に由来するDNAゲノムがあり、それらが「母性遺伝する」と聞いたとき、ものすごく不思議に感じてしまい(それは今も不思議なのですが)、そこで出会った「なぜ」を追いかけているみたいです。

坂本先生

 
実験中の坂本先生 Q.なぜ植物を使った研究をされているのですか?

 血を見るのが苦手というのが一番簡単でわかりやすい理由ですが(笑)。でも、植物の魅力はとても感じていました。例えば、今でこそiPS細胞など、動物でも細胞に分化全能性があることになっていますが、当時(25年前)、分化全能性は植物だけが持つ独自の特徴ということで、組織培養と個体再生は植物の研究が先行していたんですね。それで、植物のバイテクを始めた企業もたくさんあったし、学生にも、今よりももっと植物の人気があった。分子生物学の授業は微生物を用いた話が中心で、植物の遺伝学というのは、複雑だけどすごく魅力を感じました。
 あとこれは後々気がつきましたが、生物学や遺伝学における重要な発見は植物で初めて明らかになったことが非常に多いのですね。メンデルの遺伝学はエンドウを使った実験ですし、上の組織培養と再生個体もタバコが最初です。最近注目されている「ジーンサイレンシング」だって植物で古くから知られていた現象だったわけです。それは、植物における遺伝子導入と個体の再生が早くに確立されていたからでもあります。
 少し余談になりますが、大学院時代は植物で遺伝子のクローニングができる先生はほとんどおらず、Molecular Cloningを見て先輩と今では気の遠くなるような時間をかけて実験していました。あのころ苦労したのは今では良い思い出ですが、世界レベルで研究するには「実験をいかに効率よくするか」、ということを思い知らされました。的確な情報を的確なところから入手すること、それは今でも大切なことだと思っています。
 
Q.研究の内容をもう少し教えて下さい

 私たちのグループでは、植物細胞だけが持つオルガネラである葉緑体が生長の過程で分化し、機能を維持するしくみについて分子レベルで研究しています。葉緑体は葉の生長によりプロプラスチドから分化しますが、それらの発生にはよくわかっていないことが多いのです。例えば、葉緑体の中にある「チラコイド膜」という袋状の構造が積み重なって「グラナスタック」を形成し、そこで光エネルギーの受容と光合成反応が起こります。分化した葉緑体が光エネルギーを利用して光合成を行うことで、植物の自立栄養性が保持されます。また、前述のように葉緑体は独自の遺伝(片親遺伝)をします。これらのプロセスに関わることを遺伝学の手法を中心に解析しています。あまり知られていませんが、光合成研究は岡山大学が世界を先導する研究分野の1つです。
 現在行っているプロジェクトは大きく分けて2つあります。1つは、シロイヌナズナで葉に斑入りを起こす突然変異体を使った研究を行っています。葉に起こる斑入りは皆さんもよく見かけると思いますが、どのような仕組みで、また何のために斑入りになるかはよくわかりません。そのような変異体の解析で、まず光合成装置の維持に重要な役割をするプロテアーゼを明らかにしました。現在はその機能を解析しています。また、私たちの斑入り変異では活性酸素が生じており、病原細菌に抗菌性を示すこともわかりつつあります。もう1つは葉緑体遺伝に関わる変異体の研究で、花粉でオルガネラDNAを分解する酵素を見出す研究を試みています。こちらは研究を始めてまだ5年も経っていませんが、葉緑体遺伝の研究を進めるだけでなく、葉緑体ゲノムを改変して遺伝子操作を可能にする技術の開発にも取り組みたいと思っています。

シロイヌナズナ
 

研究成果
Q.行っている研究はどんな役に立つのでしょうか?

 正直にいえば、葉緑体の分化や遺伝を研究することは将来への基盤研究であって、すぐに役に立つ研究ではありません。でも、葉緑体が正常に発達して効率よく光合成を行うことは、私たちの生育環境で最も大事な生命現象の1つです。最近問題となっている二酸化炭素排出による地球温暖化も、それ自身は都市化や森林伐採による社会問題ですが、排出された二酸化炭素を吸収できるのはこの地球上で葉緑体と光合成細菌だけです。光合成というと、なんだか難しい、かつ既に解明されている生命現象と思われていますが、刻々と変化する環境に植物がどのように適応していくかについては未知のことが非常に多いのです。光合成と環境適応、またそれを可能にする葉緑体の分化と維持のシステムを明らかにすることは、間接的にはこのような問題とも関係していますし、作物の生産性向上にもつながります。
 
Q.進学を志す学生さんへメッセージをお願いします。

 大学院で研究を目指す学生さんには、必ずアドバイスするのですが、まず自分が研究する目的をはっきりさせることだと思っています。私の考えだと、それは大きく分けて2つあり、1つは「世の中のためになる(役に立つ)研究がしたい」という目的意識、もう1つは「誰も知らないことを発見したい」という目的意識です。もちろん両方あればいうことないですが、どちらかになりがちです。「役に立つ」研究の場合は、目的がはっきりしている分、楽しくない実験を毎日繰り返すこともあるかもしれません。でも莫大な利益をもたらす研究になることだってあります。「発見したい」研究の場合は、自己満足になりがちですが、どんなにちっぽけでも発見は発見です。私は農学部出身でありながら、どちらかというと発見したい方です。まず、研究の楽しさを知るために自分だけの発見を見出し、それらを何とか役立てないかと考える、そんな意欲ある学生さんと一緒に研究がしたいと思っています。

学生達とディスカッションする坂本先生
編集者Mより一言
斑入りや片親遺伝等の研究成果を聞くと不思議がいっぱい。
植物はもとより我々人類にとっても非常に重要な葉緑体、人類のバラ色な未来を獲得するには重要な研究でしょう。
研究室の皆さんが非常に明るい坂本研、坂本先生の人柄によるところも大きいのだと思います。
参考リンク:
光環境適応研究グループ
 

 

 

   

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