もっと研究について知りたい! トピックスでは研究所の方々にインタビューして研究の"今"を伝えます。

「ムギ類の穂は、どのような
分子メカニズムで形成されるのか?
―オオムギ、コムギを使って
ブラックボックスの解明を目指す―」



遺伝資源機能解析グループ 助教 漆川直希先生
 
Q.研究者になろうと思ったきっかけを教えて下さい。

 「徳島県の秘境~祖谷のかずら橋~」よりさらに山奥で生まれたので、周りに自然があふれていました。というか、自然しかありませんでした。初夏はイタドリを食べ過ぎて、よくお腹を壊したものです。小学生のころ祖母から接ぎ木の方法を教えてもらい、道端に生えている草を使って様々な組み合わせで接ぎ木を行っていた記憶があります。例えばキュウリとカボチャ、あるいはサボテン同士は簡単にくっつくのに、ヨモギとタンポポではいくらやっても上手くいかず、不思議に思っていました。こうした子供の頃の経験や疑問が、生物学への興味につながったように思えます。
 多くの理系学部では学部3年あるいは4年次には卒業研究を行う研究室を選択します。私の場合、周りに魅力的な研究室があふれていたため大変迷いました。そんな時、恩師である福井県立大学、村井耕二教授に「俺と一緒に世界を目指そうぜ」と声をかけていただき、軽い気持ちでコムギを扱う研究室を選びました。これが人生の分岐点の一つだったことは間違いありません。
 学部4年生から博士後期課程にかけて、一貫してコムギの生殖成長 (開花して、種子を形成する過程)に関する研究を行ってきました。早い段階で博士課程への進学を決めていたので、同じ研究室でじっくりとコムギの研究を進めることができました。博士号を取得後、幸運にもオオムギの進化・栽培化の過程で最も重要な形質の一つである「皮裸性決定遺伝子NUD 」の単離に世界に先駆けて成功された武田真教授の研究室で採用していただき、オオムギを材料とした研究を進めています。

普段の漆川助教
 
実験中の漆川助教 Q.コムギを用いた研究内容について教えてください。

 パン、うどん、ケーキ、パスタ、ラーメン、醤油。。。私はどれも大好物です。朝食はパン、お昼はうどんを食べました。こうした様々な食物の原料にコムギが使われています。
 コムギは熱帯や極地を除く全世界で栽培され、年間約6億トンが生産されている重要な穀物です。パンの原料となるパンコムギという種は、面白いことに違う種との交雑を経て成立した異質6倍性の植物です。少し難しいのですが、1つの細胞内に、別々の3つの種に由来する3セットの遺伝子情報が同居しているということです(詳しくはこちらhttp://www.shigen.nig.ac.jp/wheat/story/top.jsp)。
 初めて倍数性の話を聞いたとき、私はとても衝撃を受けました。違う種が交雑して、新たな特徴を持った種が生まれ、それが世界中に広がった。。。ドラマティックな進化の過程を想像し、異種ゲノムの協調システムという大きな謎を予感したのです。しかも研究材料としてのコムギには「人為的な交配によって進化の過程が再現できる」という非常に面白い特徴があります。その一方で、倍数性植物は複雑なゲノム構成であるため、一般的に分子生物学的な実験の難易度は高くなります。しかし、コムギで面白いのは倍数性だという直感を信じて研究を続けてきました。これまでに私達は、コムギの花を形作る遺伝子群が、倍数性進化の過程で巧妙にコントロールされてきたことを証明してきました。倍数化のもたらす変化を一連の生理過程に当てはめて解析したことで当該分野での注目を集めており、得られた成果はイネの研究にも応用されています。
 
Q.オオムギを用いた研究内容について教えてください。

 
焼酎、ビール、ウイスキー、味噌。。。私はどれも大好物です。昨晩はビールを飲みました。こうした様々な食物の原料にオオムギが使われています。
実はコムギとオオムギでは遺伝子構造がとても似通っていて、両者の情報を相互に活用できるというメリットがあります。さらに当研究所の「大麦/野生植物資源研究センター」はオオムギ研究の拠点であり、様々な情報を得ることができる場所でもあります。
 また、オオムギは古くから変異誘発実験の材料として用いられてきた歴史があり、数多くの突然変異体が保存されています。その中には、研究の進んでいるイネやトウモロコシ等のモデル植物でさえも知られていなかったユニークな特徴を持つものが存在しています。こうした貴重な材料を解析することで、これまで未解明だった多くの謎を解き明かすことが出来ると期待しています。このように、2倍性の実用作物であり、面白い材料(変異体)が豊富な点が研究材料としてのオオムギの魅力だと私は考えます。
 突然変異体では、何らかの遺伝子に変化が起きていると予想されます。その原因遺伝子を見つけ出すための強力なツールが、マップベースドクローニングと呼ばれるテクニックです。オオムギでは依然として難しい手法なのですが、所属している研究室で蓄積されてきた技術を教えていただき、短期間で複数の重要な変異体の原因遺伝子候補を特定することが出来ました。


オオムギ実験圃場で調査中の漆川助教
 

 オオムギの花を形作る遺伝子の発現パターン。MADS-box転写因子と呼ばれる遺伝子が相互作用することで、個々の花が形成され、やがて種子が稔ります。青紫色の部分が遺伝子が発現している領域を示しています。
Q.研究はどのような役に立つのでしょうか?

 新たな研究テーマを立ち上げる際には、常に「何の役に立つか」ということを考える必要があると思います。しかし、有益性の確保が常に優先されるべきだという考え方には違和感を覚えるし、研究の裾野を広げるための基礎研究や純粋な探究心も等しく重要だと思います。色々な申請書を書くたびに、両者のバランスに悩んでいます。
 私の場合は「ムギ類の生殖成長」が主なテーマであり、研究の過程で見出した情報が将来的に食糧の生産に貢献できるように目指しています。例えば現在、種子を包み込む穎(えい)と呼ばれる器官の発生を司る遺伝子の解析を進めています。穎は、種子を異物の侵入から防ぐ役割も担っており、病害虫抵抗性にも関連しています。他にも花器官の形態をコントロールする遺伝子群の解析を進めており、生産性向上に結び付けたいと考えています。。
 
Q.進学を志す学生さんへメッセージをお願いします。

 研究生活に疲れてきた人に、「研究職を目指すわけでもないのに、役に立つのか?」と聞かれることがあります。私は「必ず役に立つ」と答えています。テーマを設定し、情報を集め、手を動かし、わかりやすくアウトプットするという研究の流れは、極めて汎用性の高いスキルです。また、研究生活で育んだ合理的な思考で、人生の新たな視野が開けることだってあるでしょう。Take it easy. 自分を追い詰めるより、気楽に(でも真剣に)研究を続けることが大切なポイントだと思います。
一方で、もし研究者を目指すのであれば、冷静にリスク判断をする必要があると思います。常勤研究職の採用枠は少なく、ただ時間だけが経過すると、精神衛生上良くありません。私の場合は、まず博士課程への進学を決意した段階で、「この時点までに、期待するだけの成果が出せなければ諦める」という、いわゆる損切りラインのようなものを決めました。そして研究を続けるための努力は最大限に続けながら、それが叶わなかった場合にも備えて行動していました。確かにギリギリの場所にチャンスが転がっている場合もありますが、何よりも自身の肉体的・精神的な健康を第一に考えて行動していただきたいというのが私の気持ちです。
 実験は上手く進まないことが多いです。結果を原著論文にまとめるのも、本当に大変な作業です。どれほど頑張っても世界中のライバル達に先を越されることがあります。しかし、研究を続けることで得られる達成感、仮説が浮かんだときの高揚感、そして何よりも新発見の興奮というものは、他では味わえない妖艶な魅力を持っています。自分の持てる全ての力を使い、挑む相手は生命の神秘と言われてきた領域です。とてもエキサイティングではありませんか? 本研究所、通称「植物研」は全国でも唯一の農学系の大学附置研究所であり、さらに2010年4月より共同利用・共同研究拠点となったことで様々な先端機器が導入されています。また、世界的にも有名な先生方が大勢いらっしゃいます。最新の設備と素晴らしい指導のもとで、一緒に熱き探求の日々を送りましょう!!

普段の漆川助教
参考リンク
 遺伝資源機能解析グループ
 遺伝資源機能解析グループ 学生募集ページ

 

 

   

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