オオムギ

オオムギとは

オオムギは世界第4位の穀物で、遺伝学的解析が進んでいます。当研究所では60年以上の長いオオムギ研究の歴史があり、国内のオオムギ研究の拠点となっています。オオムギは、乾燥や塩などのストレスに耐性を示すことやコムギと祖先が同じゲノム(遺伝子)を持つことなど、将来の食糧問題、不良環境修復などに不可欠な植物です。

遺伝子多様性の起源

 古代メソポタミアの土器片にすでに穂型文様が記されているように、いまから約10,000年前、“豊かな三日月地帯”で野生植物から栽培化されたオオムギは、長い栽培の過程で形態的、生態的あるいは農業的な形質において多くの突然変異を生じ、適応しながら栽培地域を拡大してきました。
 たとえば、栽培オオムギの野生型のH. vulgare subsp. spontaneumは元来秋に芽を出して越冬後に開花・結実する秋播性ですが、春に芽を出して夏以降に結実する春播型突然変異によって、オオムギは極寒あるいは山岳地帯でも栽培可能となりました。また、シルクロードを通って極東に達したオオムギは、モンスーンに適した耐湿性や病害抵抗性を獲得し、米食民族の好む裸性やモチ性品種を定着させました。さらに、古代エジプトで発祥し、中世ヨーロッパの修道院で確立されたビール醸造技術は、発芽によって活性化された酵素を利用する複雑な醸造過程に適したオオムギを選抜し、ビールオオムギとよばれる特殊な一連の遺伝子型を確立しました。栽培オオムギに存在するこのような遺伝変異(遺伝子)は、人類の農業生産に伴って無意識にあるいは意識的に選抜が加わって獲得されてきたものであり、これらが集積された系統(遺伝子型)は、収集された地域や用途によって異なる独特の遺伝子構成を有します。

 当研究室は、このような多様な遺伝子の変異を保存し、ゲノム多様性の解析、有用遺伝子の単離など最先端の研究を進めています。

実験生物として

オオムギの特徴

オオムギは自殖性の二倍体で突然変異が得られ易いことから実験植物として広く用いられています。これまで相互転座系統、連鎖群検定系統、特定遺伝子の同質遺伝子系統対、オオムギ染色体のコムギへの添加系統、トリゾミック系統群などを用いてオオムギの遺伝解析は精力的に進められてきました。また、DNAマーカーを利用した分子地図作製によって、ゲノムDNA断片の塩基配列の相同性が高く、またそれらの断片の順序に相同性を有するゲノム領域(シンテニー)の存在することが、オオムギを含むイネ科植物間に見いだされてきました。コムギ、ライムギなどと同祖性を有するオオムギはムギ類におけるゲノム解析のモデル植物として注目されています、ゲノム研究のモデル植物としての要件をイネ、シロイヌナズナを含めて比較すると以下の表にまとめられます。


ゲノム研究のモデル植物としての要件

シロイヌナズナイネオオムギコムギライムギ
ゲノム(Mb)1454305000160005000
倍数性22262
生殖様式自殖自殖自殖自殖他殖
染色体数(2n)1024144214
研究蓄積
変異体数
材料入手
生育期間(日)289090-180100-180100-180
栽培/交配
形質転換

オオムギの実験方法

種子の乾燥と保存

オオムギは穂首が黄色に変化したら収穫可能である。乾燥した環境を好むオオムギは、登熟後の降雨や高湿度によって発芽能力が著しく低下する。収穫後の穂は、通気の良い紙袋などに入れて40℃以下の温度で乾燥し、脱粒して紙袋などで保存する。種子は燻蒸剤などで殺虫することが望ましい。シリカゲルを入れたデシケーターや密閉容器で保存すれば、オオムギの種子は常温でも発芽力を維持しながら10年程度保存できるが、低温条件で保存すればさらに長期間の保存が可能である。低温保存する場合でも低湿度でなければ種子の発芽力は低下するので、シリカゲルを年一回程度交換する。


種子の休眠打破

オオムギ種子は収穫後に休眠を示すことがあり、特に野生オオムギでこの傾向が著しい。自然状態での休眠覚醒には30℃以上の乾燥・高温条件が一定期間必要であり、この期間には遺伝子型間で大きな変異がある。直径9cmのペトリざらにロ紙(No.2)を2枚敷いて4.5mlの水を加えるのがオオムギ種子100粒を催芽する際の標準条件であるが、休眠打破する場合には水の代わりに1%過酸化水素水を用いると効果がある。また、穀皮の除去、25ppm程度のジベレリン処理などを併用すると、より高い覚醒効果が期待できる。


種子の発芽

オオムギは1本の主根に続いて種子根が発根する。これに対してイネは種子根が1本である。裸性オオムギでは出根と同じく胚の部分から出芽するが、皮性オオムギにおいて芽は外頴と胚乳の間を伸長して胚と逆側から出芽する。


栽培法

冬作物であるオオムギの生育適温は意外に低く、栄養生長は15℃、出穂開花は18~20℃程度で最も盛んとなる。発芽も20℃以下が適温であり、10℃程度の低温の方がむしろ斉一である。オオムギの出穂・開花には低温要求性があり、幼苗期に低温(4℃程度)が必要のないⅠ(高度春播き性)から6週間程度必要なⅥ(高度秋播き性)に分類される。本州以南の戸外で秋播きする場合は低温処理の必要はないが、北海道の春播き栽培あるいは本州以南で温室栽培する場合で、低温要求性未知の系統は低温処理をした方が安全である、その際、種子は催芽し乾燥させないようにしてインキュベーターあるいは冷蔵庫で一定期間(播性程度Ⅲ~Ⅵでその数字の週以上)低温処理(4℃程度)する。


交配法

オオムギは穂の中央部から上下に向かって開花する。また、六条では主列の小穂が側列より早く開花する。除雄は開花の2日ほど前に端部の小花や側列を取り除き、内外頴の間からピンセットで葯(3本)を除去する。除雄した穂には硫酸紙などで作った袋をかぶせて、2日後に授粉する。


突然変異の誘発と選抜

オオムギは突然変異の研究に最も良く用いられた植物の一つである。特に北欧では数千点の突然変異系統が保存されており、現在これらのデータベース化が進められている。変異源にはγ線が広く用いられており、農水省の放射線育種場に依頼すれば照射可能である。研究室では古くはEMSなどのアルキル化剤が用いられていたが、発ガン性などの問題から危険性の少ないアジ化ナトリウムによる誘発が現在よく行われている。その方法は次のとおりである。前処理として気乾種子(約10,000粒程度)を16時間氷水に浸漬した後、20℃で8時間エアレーションする。ドラフト内でpH3のリン酸バッファーにアジ化ナトリウムを1mMになるように加え、エアレーションしながら3時間処理する、水道水で5分間水洗した後,シャーレやバットで催芽してから圃場に播種する。突然変異は播種した植物(M1)分げつごとにキメラとして誘発されるので、穂別に収穫するか1穂1粒づつ収穫し、次の世代(M2)で突然変異体を選抜する。

リソース

一定量の種子(栽培種各20粒,野生種・実験系統各10粒)・cDNA クローン・系統のDNAは研究用に限って配布しております。送付をご希望の方はオオムギ遺伝資源(種子,DNA)提供同意書に従って配布いたしますので、担当の佐藤(barley@okayama-u.ac.jp) までご連絡ください。 なお、分譲にあたっては同意書を提出していただく必要があります。また、分譲に際しては実費を負担していただきます。リソース配付の手順は以下の通りです。分譲可能なリソースの詳細はBarleyDB をご覧ください。

オオムギ遺伝資源(種子,DNA)提供同意書

最新版をbarley[at]okayama-u.ac.jpにご請求ください

リソース配付の手順(暫定版)

  1. 提供希望者からの連絡(メールで到着)
  2. 種子、クローンの確認
  3. MTA様式の送付と実費の請求書の送付
  4. サインしたMTA(正本)の入手
  5. 提供希望者からの実費の送金確認
  6. 種子あるいはクローンの準備
  7. 種子あるいはクローンの送付、MTA1通、領収書の送付

Publications using barley resources
Following papers have been published during the project. Please visit the list at
http://www.shigen.nig.ac.jp/rrc/index.jsp