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Virology 60周年(還暦)記念号に掲載された菌類ウイルス学の総説です。

[著者] Ghabrial, S. A., Castón, J. R., Jiang, D., Nibert, M. L., and Suzuki, N.

[論文タイトル] 50-Plus Years of Fungal Viruses.

[掲載論文] Virology 479–480, 356–368 . doi:10.1016/j.virol.2015.02.034

[使用した共通機器] 超遠心機、DNAシークエンサー

[内容紹介] 
Virologyは1955年に発刊された最も歴史の古いウイルス学の国際誌のひとつです。今年、その雑誌が人間でいうところの還暦を迎えました。今では創刊されるオンライン雑誌が増える中、廃刊される雑誌もあります。英国あるいはアメリカの微生物学会が刊行するウイルス学の雑誌(Journal of General Virology あるいはJournal of Virology)よりも前に発刊されていたのには驚きです。そんな中で、還暦を迎える60周年記念号“Diamond” Special Reviews Issueの61の総説集の一つとしてマイコウイルス学の総説が掲載されました。

本稿では、分類、菌類ウイルス多様性、構造学、ウイルス感染による菌の病原力の衰退、最近の白紋羽病菌(日本)、ナタネ菌核病(中国)のヴァイロコントロールの取り組みまで網羅されています。菌類ウイルスは、殆どの読者の方には馴染みが薄いと思われます(実はウイルス研究者にとってもそうなのですが)。しかし、意外と知られざるウイルス学、生物学への貢献が大きいのです。例えば、複製、粒子構築の分子生物学的解析、宿主因子の同定はトティウイルスという菌類ウイルスを材料に進められ、その後のRNAウイルスの研究に大きな影響を与えました。その他にも色んなことが、本総説にはもりこまれており、楽しい読み物となっております。筆者らが研究しているクリ胴枯病菌・ウイルス系、あるいは果樹研(盛岡)・岡山大のグループが扱っている白紋羽病菌・ウイルス系も紹介されています。Robert Frost (1874~1963, The road not taken等が代表作)という有名な米国の詩人がいますが、彼の詩(“Evil Tendencies Cancel,” 1936年作)

Will the blight end the chestnut?
The farmers rather guess not.
It keeps smoldering at the roots
And sending up new shoots
Till another parasite
Shall come to end the blight.”

にクリ胴枯病菌のハイポウイルスによる生物防除の可能性を暗示する一行があり、その詩も紹介されています。通常、ウイルス学雑誌の総説でこういうことを紹介することはできませんが、60周年記念誌であり、許容範囲なのかと思います。Cryphonectria parasitica(子のう菌の1種)は世界3大樹病の一つであるクリ胴枯病の病原ですが、同時に多様なマイコウイルスの宿主であります。ウイルス・宿主相互作用研究のモデル糸状菌としての地位を確立しつつあり、本菌と植物ウイルスのモデル宿主であるN. benthamianaとの比較も興味深い内容となっています。ご一読下さい。

(文 責:鈴木信弘)

お問い合わせ先:植物・微生物相互作用グループ

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