本グループでは、植物細胞の環境ストレス応答機構を分子生物学、細胞生物学、生理学的に研究しています。
現在はストレス環境下における植物細胞の水輸送機能と水輸送体・アクアポリン、およびイオン輸送系について研究を進めています。
アクアポリン研究については、こちらもご覧ください。


高浸透圧ストレス下におけるオオムギやイネの根の水輸送活性制御

 プレッシャーチャンバー法を用いて根の水透過性を測定したところ、オオムギ耐塩性品種では塩ストレス/高浸透圧ストレスによって引き起こされる浸透圧変化の刺激を受容して、すみやかに水輸送活性を低下させて脱水を防いでいるらしいことがわかりました。オオムギ根ではストレス開始後4時間で根水透過性の一過的な回復が起こるなど、ユニークな制御があることも判明しました。各種阻害剤を用いた実験結果から、これらの水透過性の変化は膜タンパク質(おそらくアクアポリン)のリン酸化、およびエンドサイトーシスを伴ったリサイクリングによって引き起こされている可能性が考えられています。
 イネでは陸稲である Pollali や Nona Bokura で100 mM NaCl の塩ストレスによる根の水透過性の下方制御がストレス処理後1時間で観察されたが、塩感受性のオオムギや、水稲(日本晴)や水陸両用イネ( Dular や IRAT109)ではこのような根の水透過性の変化は見られなかった。根の水透過性の初期応答は、塩ストレスによる脱水を回避する、あるいは脱水を遅らせることで塩ストレス王との最初期の反応として重要であろうと考えられます。


形質転換イネにおける全PIP遺伝子の発現と根水透過性

 イネの根で特異性の高いPIP2;4を過剰発現させたイネ系統でイネの全PIPの発現を調べたところ、PIP2;4以外で根での発現特異性が高いPIP遺伝子4種類(OsPIP1:3、OsPIP2;3、OsPIP2;5、OsPIP2;6)の発現量がすべて低下していました。しかしOsPIP2;4の発現が極めて高くなっているため、OsPIP遺伝子11種類トータルの発現量は増加しており、根の水透過性も有意に上昇していることが判明しました。一方PIP2;4のT-DNA挿入ラインではPIP2;4の発現は野生型の4%まで減少しているのに対して、根での発現特異性が高いPIP遺伝子4種類はすべて発現が上昇していました。根でのPIP2;4の発現の上下を補償するようにPIP遺伝子発現調節が行われていると考えられます。


オオムギ原形質膜型水チャネル・アクアポリン(HvPIP)の水輸送活性制御の分子機構

 塩ストレス条件でいくつかの原形質膜型アクアポリン(PIP)遺伝子の発現抑制が認められました。また水輸送活性はアクアポリンの発現制御だけではなく、前項に述べたようなリン酸化やエンドサイトーシス等についても研究を進めています。
 アフリカツメガエル卵母細胞を利用した解析系によると、オオムギHvPIP1型は、単独では水輸送活性が極めて乏しいですが、2型と共発現させると水輸送活性が増強します。水輸送活性を失わせた変異体タンパク質を用いて解析した結果、PIP2とヘテロ四量体を形成することによってPIP1は水輸送活性を示すようになること、また、PIP2もPIP1とヘテロ四量体を形成することによってPIP2のホモ四量体の時より活性が増加していることが分かりました。たとえばHvPIP1;2とHvPIP2;4の間では両者で互いに活性化を起こします。ただし組み合わせによっては、そうならない場合もあってHvPIP1;2とHvPIP2;7の組み合わせでは、HvPIP1;2は活性化が起こらず、HvPIP2;7は不活性化しました。また、HvPIP1;2とHvPIP2;8の組み合わせのように、両者とも活性に変化が見られない場合もあります。これらからHvPIP1;2はPIP2活性のモジュレーターの役割を持っていることが示唆されています。
 PIPタンパク質内のどのアミノ酸が相互作用や活性化に関与するのか、アミノ酸置換した人工変異PIPを使って解明を進めています。


酵母細胞によるアクアポリンアクアポリンの新機能(新規輸送基質)の探索

 酵母を使ったスクリーニング系を開発し、野生種、及び各種イオン物質輸送能欠損・感受性変異株内で、イネ、オオムギのアクアポリンを発現させ、新規基質の探索を開始しました。過酸化水素を透過させる可能性のあるオオムギアクアポリンとしてHvPIP2;5およびHvTIP2;2が同定されました。ヒ素を透過させる可能性のあるアクアポリンとしてすでに知られているイネアクアポリンOsNIP2;1やOsNIP3;2の他にOsNIP2;2、OsNIP3;3とオオムギアクアポリンHvNIP2;2を見いだしています。二酸化炭素の輸送機能をもったアクアポリンをスクリーニングする酵母実験系についても実施中です。


二酸化炭素透過性アクアポリン

 アフリカツメガエル卵母細胞を利用した解析系によってオオムギの5つのPIP2型アクアポリンのうちHvPIP2;4以外の4つのPIP2が二酸化炭素透過活性を持つことが示されました。二酸化炭素選択性機構に関しては、HvPIP2;3の254番目のイソロイシンをメチオニンに置換すると二酸化炭素透過活性が消失することを明らかにしました。酵母を使ったスクリーニングからはオオムギの他に、イネやシロイヌナズナにおいてさらにいくつかの二酸化炭素透過性を持つアクアポリンが同定されています。現在、酵母スクリーニング系の改良を進めています。
 二酸化炭素透過性を持つアクアポリンは、二酸化炭素の葉内コンダクタンスを決める因子とされ、その性質によって植物の光合成機能/効率が大きく影響されると考えられてます、そのため現在世界中で研究が活発化しています。


オオムギHvCNGC2-3の特性解析

 塩ストレス環境でのイオン輸送に関与していると考えられているオオムギの陽イオン輸送系HvCNGC2-3を単離して、アフリカツメガエル卵母細胞に発現させて電気生理学的に輸送基質や活性化特性を解析しました。その結果、このイオンチャネルはcAMPによって活性化されて、さらに外液にK+とNa+が共存するときにだけ輸送活性が見られ、K+とNa+とを区別せずに同じ透過性で輸送することがわかりました。CNGC輸送系の遺伝子は多くの植物で存在が知られていますが、その輸送基質や生理的役割についてはほとんどわかっていません。私たちの研究はCNGCの機能解明にとって大きな一歩となります。