WakuWaku
科学者には突然「ワクワク」する瞬間が訪れる。
それは、「美しい結果」だったり、
「新しいアイデア」だったりするが、
とにかく「その瞬間に、そのことを知っているのは、
科学の女神と自分だけなんだ!」って瞬間が。
この瞬間のために今日も科学する。


Sugarcane centromeres
私が大学院生の頃、
ヒトではαサテライトを用いて人工染色体がつくられ、
植物でも動原体に存在する反復配列が取られはじめた。
「私も動原体の仕事を始めたい」
そう思いながらもオリジナルの材料が無かった。
そんなとき、中華街でのパーティーで老酒を飲んだ瞬間
科学の女神が舞い降りて、ささやいた
"If you deal the species having many chromosomes, they will be."
こんな女神のささやきから私の動原体研究は始まった。
Kiyotaka Nagaki, Hisashi Tsujimoto, and Tetsuo Sasakuma. A novel repetitive sequence of sugarcane, SCEN family, locating on centromeric regions. Chromosome Research 6: 295-302, 1998.
Science: 2
Art: 1

Rice centromere 8
ポスドクとしてウィスコンシン大学で研究していたとき、
うちのラボの1つの目標は
「高等真核生物の動原体配列の完全解読、一番乗り」だった。
その目標のためのイネの第8染色体動原体領域の解析のさなか、
「動原体には無い」と教科書に書かれていたモノが見つかった。
「転写活性のある遺伝子」
これは、ヘテロクロマチン領域からなる動原体には、
「存在できないモノ」と考えられていた。
そして、「どの様にしてこの2つの矛盾する性質が
共在しているのか?」をクロマチン免疫沈降を駆使して、
ある夜ついに明らかにした。
その瞬間から翌朝ラボのボスとディスカッションするまでの間、
それは紛れもなく「世界で自分しか知らない真実」だった。
Kiyotaka Nagaki, Zhukuan Cheng, Shu Ouyang, Paul B. Talbert, Mary Kim, Kristine M. Jones, Steven Henikoff, C. Robin Buell, and Jiming Jiang. Sequencing of a rice centromere uncovers active genes. Nature Genetics 36: 138-145, 2004.
Science: 22
Art: 3

Holocentric chromosomes
そして岡山大学に助手として着任し、
研究課題のひとつとして
「分散型動原体(holocentric chromosomes)」
を選んだ。
理由は単純に「変わり者は面白そうだから」。
分散型動原体をもつ「ルズラ」は、
モデル植物からは、ほど遠く、色々と困難はあったが
ついにその分散型動原体の姿が明らかになった。
動原体は「くびれ」にではなく
「染色体の側面に形成された溝」に存在した。
「やった」と思ったのもつかの間、
とある雑誌の次号目次にイギリスのグループの
「ルズラ染色体の分子解析」というタイトルが…。
正直、「負けた」と思ったが、発表されたそれは
私たちのデーターとは似ても似つかぬモノだった。
「おそらくは、アーティファクト。
これなら、発表が後手に回っても大丈夫」
そう言い聞かせながら、論文を投稿した。
そして、私たちの論文は、すんなり受理された。
このとき「真実のもつ力」を実感した。
Kiyotaka Nagaki, Kazunari Kashihara, and Minoru Murata. Visualization of diffuse centromeres with centromere-specific histone H3 in the holocentric plant Luzula nivea. The Plant Cell 17: 1886-1893, 2005.
Science: 3
Art: 8


Cell divisions of onion
とある学会でタマネギの発表を聞いていたとき、
ふと「タマネギの動原体を研究すれば
世界中の生物学の教科書を変えられるかも知れない」と思った。
「より美しく」このためにできることは何でもした。
そして、世界中のどの教科書にも載っていない写真が撮れた。
そのとき、思ったんだ、
変えられるのは「世界中の教科書の植物細胞分裂の写真」
ではなくて「教科書そのもの」だって、このデーターを使えば
iPadと「素人でも簡単に電子書籍を作れるソフト」を残して
旅立った人の夢見たものが作れるんじゃないかって。
その人の存命中には間に合わなかったが
「素人が作った紙では表現できない教科書」は完成した。
私の作った教科書は、あなたの夢見たものだっただろうか?
この教科書を空の上でで楽しんでくれていればいいのだが。
そして、この教科書が世界中の生物学の授業に
役立ってくれればいいのだが…。
Kiyotaka Nagaki, Maki Yamamoto, Naoki Yamaji, Yasuhiko Mukai and Minoru Murata. Chromosome dynamics visualized with an anti-centromeric histone H3 antibody in Allium. PLOS ONE, 2012. 7(12): e51315.
Science: 2
Art: 2(自分としては10)


