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発表内容
ケイ素は土壌中に酸素についで2番目に多く存在し、すべての植物に含まれています。ケイ素は、多くの植物に対して様々なストレスを軽減する有益作用を持っています。特にイネの健全な生育と安定多収には不可欠であるため,日本では農業上の必須元素として位置づけられ、また稲作の一環としてケイ酸肥料が施用されてきました。イネはケイ素が不足すると、倒伏しやすくなり、病虫害(特にいもち病)に対する抵抗性が弱くなり、また群落の光合成能力も低下し、その結果生産性が著しく低下します。イネは必須元素のチッソやリン、カリウムよりも数倍のケイ素を集積します。この高い集積能力は根の吸収能力に起因するとされていますが、吸収に関与する遺伝子は長い間明らかにされていませんでした。この度、岡山大学資源植物科学研究所・馬教授のグループは農業生物資源研究所などとの共同研究で、世界ではじめてイネのケイ酸吸収を司る遺伝子の同定に成功し、3月30日に出版される英科学誌「ネイチャー」に発表しました。
イネの高いケイ酸吸収能に関与する遺伝子を単離するために、イネのケイ酸吸収がなくなる突然変異体を探し出しました。変異体を利用してケイ酸の吸収に関わる遺伝子をクローニングしたところ、単離したLsi1遺伝子は五つのエクソン、四つのイントロンから構成され、296個のアミノ酸からなる六つの膜貫通ドメインを持つ膜タンパク質をコードしています。Lsi1タンパクはアクアポリン様タンパク質のNIP(NOD26-like intrinsic protein)サブグループに属しています。この遺伝子は主に根において常に発現していますが、その発現量はケイ酸の有無によって変動し、ケイ酸が十分にある場合と比べ、ケイ酸がない場合は4倍に増加しました。Lsi1タンパク質は主根にも側根にも存在しますが、根毛に存在しません。またLsi1は根の外皮と内皮細胞に局在していることが明らかとなりました。アフリカツメガエルの卵母細胞にLsi1を導入し、輸送活性を測定した結果、特異的にケイ酸を輸送する活性が認められました。
ケイ素の有益効果は主に地上部の各器官に大量に沈積することによって発揮されます。したがって、本研究で同定したイネのケイ酸トランスポーター遺伝子は農作物の品種改良に大きく貢献すると考えられます。例えば、イネのトランスポーター遺伝子を他の植物に導入し、これらの植物のケイ酸吸収能を遺伝的に改変すれば、土壌に豊富に存在するケイ酸を吸収し、病虫害など複合ストレスに強い作物の作出が可能です。これは減農薬農業につながります。また、アンチセンスやRNAiの手法を用いて、イネのケイ酸吸収能を抑制すれば、低ケイ酸含量の飼料用イネの作出が可能です。さらに、低ケイ酸含量の稲わらを作れば、製紙などの原料に使う場合、機械の損傷を軽減することができます。
発表雑誌:ネイチャー Nature 440, 688-691 (2006)、3月30日号
(http://www.nature.com/nature/journal/v440/n7084/full/nature04590.html)
問い合わせ先:馬 建鋒
岡山大学資源植物科学研究所
〒710-0046 倉敷市中央2丁目20−1
Tel: 086-434-1209 Fax:086-434-1209
Email: maj@rib.okayama-u.ac.jp
主な共同研究者
馬 建鋒・岡山大学資源植物科学研究所・教授(代表)玉井一規・岡山大学大学院博士後期課程院生(馬グループ)
三谷奈見季・岡山大学大学院博士後期課程院生(馬グループ)
山地直樹・岡山大学資源植物科学研究所博士研究員(馬グループ)
小西左江子・農林水産先端技術研究所・研究員
且原真木・岡山大学資源植物科学研究所・助教授
石黒正路・財団法人 サントリー生物有機科学研究所・主席研究員
村田佳子・財団法人 サントリー生物有機科学研究所・研究員
矢野昌裕・独立行政法人農業生物資源研究所・分子遺伝研究グループ応用遺伝研究チーム長
研究助成
農林水産省「イネゲノムの重要形質関連遺伝子の機能解明」(馬 建鋒)日本学術振興会 科学研究費補助金(馬 建鋒)
文部科学省 特定研究 科学研究費補助金(馬 建鋒)