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Andes

植物プランクトンチームでは、赤潮原因藻ヘテロシグマ(学名 Heterosigma akashiwoの環境中での振る舞いがどのようにして決定されるかについて、分子・細胞のレベルから理解することを目指した研究を行っています


 ヘテロシグマは、水温が上昇し、日照も強くなる春〜夏にかけて、時に高密度に達する赤潮を形成します。普通であれば、1リットルの海水中に数細胞しか生息しないにもかかわらず、時に1mlに10万細胞以上にまで増殖し、写真のような赤潮を形成します。

この海水を採取して観察すると、含まれているのはほとんどヘテロシグマで、他のプランクトンはほとんど見られません。特に赤潮を形成する時期のヘテロシグマは増殖が早く、他の種を圧倒して増えることができるのに加え、ヘテロシグマは、他の植物プランクトンの増殖を阻害するような物質(アレロパシー)を作ることが知られています。
 ヘテロシグマは、日本を含む温帯に生息すると考えられてきましたが、ここ十数年の研究で、亜寒帯から熱帯まで、非常に広く分布することがわかってきました。これは、ヘテロシグマが高い環境適応能を持つことを示すとともに、どのような歴史的な経緯を経てヘテロシグマが世界中に伝播するに至ったか、という興味深い疑問を提示します。
 現在、私たちは、以下の4つのトピックについて研究を行っています。

ヘテロシグマ発現遺伝子配列の網羅的解析(transcriptome assembly)

ヘテロシグマは、約2 Gbpのゲノムを持っています。このゲノムサイズは大体ヒトのゲノムサイズに相当しますが、ヘテロシグマゲノムの配列はまだ解読されていません。私たちは、まずはヘテロシグマ発現遺伝子配列を網羅的に取得することを目指して、6年間にわたりRNAseqデータを蓄積し、そのアセンブルと 遺伝子予測機能予測を完了し、発表しました。他にも、ヘテロシグマのtranscriptome assemblyを発表したグループはありますが、踏み込んだ解析結果は発表されていません。私たちのデータは、ヘテロシグマの生態生理を研究する世界中の研究者のお役に立つことができると考えています。本研究は、先進ゲノム支援の支援を受け、北海道大学 佐藤昌直准教授との共同研究として行い、発表しました。

ヘテロシグマ増殖に影響する海洋細菌

赤潮の発生は、富栄養化や海水温の上昇などが引き金を引くと言われています。このような要因の他に赤潮原因藻の増殖を促進する要因はあるでしょうか?私たちは、ヘテロシグマに随伴する海洋細菌として単離したAltererythrobacter ishigakiensisが、ヘテロシグマの増殖を特異的に促進することを見出しました。面白いことに、ヘテロシグマと同じラフィド藻綱に属する赤潮原因藻シャトネラに対しては、この細菌は影響を与えません。また、ヘテロシグマとシャトネラを混合した系にこの細菌を加えると、ヘテロシグマ増殖が促進される一方、シャトネラの増殖は抑制されます。これは、もともとヘテロシグマがもっているシャトネラに対する増殖抑制効果(アレロパシー効果)が、この海洋細菌により強化されるためと考えられます。
私たちは、A. ishigakiensis以外にも、ヘテロシグマ増殖を促進する海洋細菌を多数見つけて、その増殖促進機構について研究を進めています。また、このような研究の流れの一環として、当グループは、チリにおける赤潮モニタリング・プログラムに参画しています。

ヘテロシグマ系統地理学的マーカーの探索

ヘテロシグマは、世界中の温帯域の浅海に生息しているとされていました。しかし、近年、ヘテロシグマはシンガポールやブラジル・リオデジャネイロなどの熱帯や、北極圏に位置するノルウェーのスヴォルヴァールでも見出されています。これは、単により広い海域でヘテロシグマが同定されたためなのか、それとも、近年の気候変動などにより、ヘテロシグマの生息域が広がったためなのか、興味が保たれるところです。br /> 私たちは、日本・北米・南米・ニュージーランド・ヨーロッパなどの広い範囲よりヘテロシグマを入手し、それらのミトコンドリア ゲノムの配列を解読し比較して見ました。その結果、ミトコンドリア ゲノム上に、非常に多様性に富む配列を見出しました。興味深いことに、この配列は、ヘテロシグマが由来する水域毎にある程度の相同性がを示すことが明らかになりました。このような由来水域に相関する配列は、ヘテロシグマの由来地マーカーとして利用できる可能性があります。
現在は、それぞれの海域におけるこのマーカー配列の多様性を検討し、さらに、より広い海域よりヘテロシグマを入手することで、どのような歴史的過程を経てヘテロシグマが現在の広域分布に至ったかを解明したいと考えています。

共同研究:ヘテロシグマへの遺伝子導入法の検討

ヘテロシグマが赤潮の原因となることは古くから知られてきていました。一方で、その細胞生物学的理解は必ずしも進んでいるとはいえません。その理由の大きなものとして、ヘテロシグマの遺伝子配列がほとんど明らかにされてこなかったこと、さらに、ヘテロシグマの遺伝子工学的手法が確立されていないことが挙げられます。私たちのグループは、現在、岡山大学工学部の研究グループと共同で、ヘテロシグマへの一過性遺伝子導入の確立を目指した研究を行っています。
この研究を進めることができれば、ヘテロシグマを分子細胞生物学的な手法で研究することが容易になるため、画期的なブレイクスルーになることが期待できます。

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