気孔と大気汚染 / Stomata and air pollution

5.1. 植物の有害ガス耐性機構 / Mechanisms of hazardous gas resistance of plants
ストレス・トレランスとストレス・アヴォイダンス / Stress avoidance and stress tolerance
有害化合物に直面したとき,動物植物問わず,ふたつの対策があります.ひとつは有害化合物を無毒化するなどして,あっても大丈夫になることです.このような対策(適応)はストレス・トレランス(寛容)と呼ばれます.もうひとつは有害化合物を避けることです.このような対策はストレス・アヴォイダンス(回避)と呼ばれます.動物や遊泳性の微生物では,ストレス・アヴォイダンスをイメージすることは容易です.土に根を張る植物でのストレス・アヴォイダンスとはどのようなものでしょうか.

気孔からの有害ガスの侵入とストレス・アヴォイダンス
気孔は,光合成に必要な二酸化炭素の取り入れ口であると同時に,蒸散流により根から水および養分を吸収して体中に分配する役割があります.さらにそれと同時に,気孔からは有害なガスが,体内に侵入してしまいます.多くの陸上植物の表面はクチクラで覆われているため,表皮が直接有害ガスと接触することを緩和していますが,一度葉内に入り込まれると植物は無防備です.このため,気孔が閉鎖することにより,有害ガスが葉内に侵入することを抑制することで,有害ガスが葉内の組織と接触することを一時的に避けることができます.このような応答は,植物のストレス・アヴォイダンスのひとつです.

5.2. 亜硫酸ガスに対する応答 / Response to sulfurous gas
亜硫酸ガスの発生
亜硫酸ガスは,化石燃料の燃焼や火山活動により大気中に放出されます.亜硫酸ガスの大気への放出は酸性雨の原因ともなっています.下の図は,2018年3月に起きた新燃岳の噴火に伴う待機中の亜硫酸ガスの濃度を人工衛星から観測したものです.短い期間ではありますが,九州全域で亜硫酸ガスの濃度が高くなっていることが見て取れます.
とはいえ,亜硫酸ガスの放出の非常に大きな部分は,化石燃料の燃焼によるもので,人工的に発生したものです.

植物への亜硫酸ガスの影響
植物に対する亜硫酸ガスの影響は,古くから研究されており,イギリスでの産業革命のころからすでに研究が始まっています.古い文献にあたると,研究の当初は,亜硫酸ガスは植物の硫黄源となるため,成長に有用と考えられていたようです.しかし,比較的早い時期に亜硫酸ガスは植物にとってむしろ有害だという結論に変わっていったことがうかがえます.亜硫酸ガスは,光合成活性を低下させるような作用があります.1980年代の論文には植物種により亜硫酸ガス抵抗性に違いがあることが指摘され,ストレス・トレランスとストレス・アヴォイダンスの観点から議論されています.

しかし,亜硫酸ガスによる気孔閉口(ストレス・アヴォイダンス)を誘導するメカニズムについては,まとまった研究がなく,多くは未解明のままです.私たちは,亜硫酸ガスによる気孔閉口のメカニズムの解明に向けた研究を行っています.

このテーマに関連する代表的な論文

  • Lia Ooi, Takakazu Matsuura, Shintaro Munemasa, Yoshiyuki Murata, Maki Katsuhara, Takashi Hirayama, Izumi C. Mori*
    The mechanism of SO2-induced stomatal closure differs from O3 and CO2 responses and is mediated by nonapoptotic cell death in guard cells
    Plant, Cell and Environment 42: 437–447 (2019)
    doi.org/10.1111/pce.13406
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