気孔と根からの水の吸収 / Stomata and water uptake from roots

4.1. シンプラストとアポプラスト / Symplastic and Apoplastic flows
根における水のラジアル輸送 / Radial transport of water in roots
植物は,一般に根から水を吸収して,地上部へと輸送します.根から地上部への水の輸送は,道管を介して行われます.道管による水の流れはXylem flowと呼ばれます.一方,植物の根における水の吸収を考えるときには,根の最も外側の細胞層である表皮から道管までの,水平の水の移動を考える必要もあります.根の表面から道管のある中心柱まで中心に向けて放射状に水が輸送されることから,このような根における水平方向の水の輸送はラジアル輸送と呼ばれています.

ラジアル輸送の3つの経路
根の中心部に位置し,道管や師管が収められている中心柱(stele)の最も外側の細胞層はペリサイクル(pericycle)と呼ばれています.ペリサイクルの隣りすぐ外側の細胞層は内皮(edodermis)と呼ばれます.内皮の細胞壁は特殊な構造をしています.皮層(cortex)からペリサイクルへと水が移動する際に,細胞壁の間を水が通り抜けず,必ず内皮細胞の中を通過するように,水を通さない構造体,カスパリー線(Casparian strip)で囲われています.このため,細胞壁の中を水が通過することはとても困難です.

一方,表皮(Epidermis)から内皮細胞までの間は,細胞壁の中・細胞の中の両方を水が通過していきます.植物の細胞どうしは,プラズモデスマータ(Plasmodesmata)と呼ばれる管で繋がっています.一旦細胞に入った水が,プラズモデスマータを介して,細胞外に出ることなしに水が輸送される経路はシンプラスチック経路と呼ばれます.また,細胞に入ったり,また出たりといった具合で輸送される経路はセルトゥーセル経路と呼ばれます.一度も細胞に入ることなく細胞壁の間のみを通過する水輸送の経路はアポプラスチック経路と呼ばれます.
カスパリー線が存在するために,通常,水は内皮細胞の中を通過しなければなりません.このため,根における水のラジアル輸送では,完全なアポプラスチック経路による水の輸送量は非常に少ないです.しかし,イネなどの植物では塩ストレスなどにより,カスパリー線の水バリア能力が弱まり,アポプラスチック経路を介した水輸送が顕著に増加することが知られています.アポプラスチック経路による水の流れ(フロー)はシンプラストやセルトゥセルを迂回する水経路であることから,アポプラスチックバイパスフローと呼ばれることがあります.上右の図では,本来ブロックされている赤色で示したルートを介して水がペリサイクルの層に侵入するのが,アポプラスチックバイパスフローです.

4.2. アポプラスチックバイパスフローと有害ミネラル
ヒトは栄養としてミネラルが必要です.不足すると障害がでるような,重要な(必要な)ミネラル(元素)は必須元素と呼ばれます.植物にも必須元素があり,17の元素が必要です.動物と陸上植物では必須元素の種類は異なります.ヒトと陸上植物で大きく違うのは植物の必須元素にナトリウムがないところでしょうか.必須元素を体内に取り込むためには,それを輸送する輸送タンパク質(しばしば単に輸送体(Transporter)と呼ばれます).必須元素の輸送体は単に根にあれば良いというものではなく,各組織に適切な輸送体が分布しており,身体中にミネラルを配達しています.植物は,不必要あるいは有害なミネラルを輸送体を使ってわざわざ取り込む必要がありません.有害ミネラルが植物体内に侵入するときは,必須元素の輸送体が,似た化学的性質をもったミネラルを誤って取り込むと考えられています.

しかし,それ以外にも有害ミネラルが植物体内に侵入する経路があると考えられています.そのひとつがここで紹介しているアポプラスチック経路です.アポプラスチック経路がどれくらい,水やミネラルの吸収に関わっているかは,どうやら植物種によって異なるようです.植物種間の違いを詳しく調べた研究はないと思われます.論文を調べると,アシやイネでよく調べられているようです.もしかしたら,イネ科の抽水性植物種で顕著なのかもしれません.調べる価値はあると思います.
イネではアポプラスチック経路を通過する水の流れ(アポプラスチックバイパスフロー)がナトリウムイオンのメジャーな侵入経路だと考えている論文がいくつもみられます.また,アポプラスチックバイパスフローはカドミウムイオンの侵入に関わっているという報告もあります.アポプラスチックバイパスフローがナトリウムイオンやカドミウムイオンの取り込みに関わっているのであれば,アポプラスチックバイパスフローを抑制すると,これらの有害ミネラルの取り込みを減らすことができるかもしれません.

このテーマに関連する代表的な論文

  • Izumi C. Mori*, Carlos Raul Arias-Barreiro, Lia Ooi, Nam-Hee Lee, Muhammad Abdus Sobahan, Yoshimasa Nakamura, Yoshihiko Hirai, Yoshiyuki Murata
    Cadmium uptake via apoplastic bypass flow in Oryza sativa
    Journal of Plant Research 134: 1139–1148 (2021)
    doi.org/10.1007/s10265-021-01319-y
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