1.植物の染色体                

植物のゲノムサイズと染色体

 植物は、他の生物分類群に比べて、非常に大きな幅のゲノムサイズ(ゲノムあたりのDNA量)をもつ。最小のゲノムをもつシロイヌナズナの約130 Mb(メガベース=100万塩基対)とユリなどの約120 Gb(ギガベース=10億塩基対)の間には約1千倍の差がある。DNA量の違いは、ほぼそのまま「その生物がもつ総染色体長」に反映されるので、植物の染色体の大きさにはゲノムサイズと同程度のバリエーションがある。
 その様な植物の中で、タマネギ(ゲノムサイズは15 Gb)は「分裂細胞の頻度も高く、 一般的な動植物に比べて大きな染色体をもち、 簡易な顕微鏡で観察できる」ことから、生物学における「植物の染色体観察」の材料として、世界中で使われている。続いては、このタマネギを材料に、「植物の細胞分裂」について見ていこう。

植物の細胞分裂〜場所〜

 細胞分裂は、植物体の全体で起きているわけではない。細胞分裂は、「根の先端(根端)」や「芽」、「花芽」といった「成長中の組織」で多くが起きている。なので、「成長しきった葉」から細胞をとってきて観察してみても、そこには「分裂をしていない(間期)細胞」しか見あたらない。
 下の写真は、タマネギの根の先端に近い部分の「縦断面」を拡大したものである(スケールバーは100 μm)。右上方向に根端があることを想像すればイメージが湧きやすいかも知れない。教科書的に「分裂細胞がある」とされている「根端分裂組織(
マゼンダ四角)」に加えて、「外皮」と「内皮」の間の「皮層(四角)」にも多くの分裂細胞(緑色のシグナルを示す)が存在することがわかる。

                                                            

この写真は、タマネギの根の「横断面」である。「縦断面」と同様に、「根端分裂組織(マゼンダ四角)」と「皮層(四角)」に多くの分裂細胞(緑色のシグナルを示す) が存在することが見て取れる。「分裂細胞」が「動物の組織の中」で観察できる例は限られており、ここに示した例は「植物ならではの例」のひとつと言える。
 次のページでは、この様にして観察した切片から得られた「3次元(3D)画像」を「動画」として示す。

                                                              

タマネギ根の縦断面における分裂細胞の分布

分裂期の細胞はのシグナルを示している。マゼンダは動原体のシグナル。根端は画面上側にある。