おわりに/はじめての染色体

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 みんなが、「夜空の星を愛でる様に、染色体を愛でる」そんな、世界を作りたい。これは、私の目標である。本来、科学とは「美しいものに心を奪われ、それを観察すること」そして「自然の仕組みを理解すること」から始まった。ところが、昨今は「それは何の役に立つのですか?」が、科学の成果に対する「常套句」である。「これができれば、ガンの治療に・・・」とか、「食料問題の解決に・・・」とか、「地球温暖化の防止に・・・」とか、「科学者自身が積極的に発言する」場合もあるし、「マスコミが勝手に、そういう発言にしてしまう」場合もあるが、ほとんどの場合「遠い未来に関係あるかもしれない」程度の事が「主目的」の様に語られることが多い。
 その度に、私はあるエピソードを思い出し、 「みんなが、夜空の星を愛でる様に、染色体を愛でる。そんな、世界を作りたい」と思うのである。そのエピソードというのは、私の母校である横浜市立大学での、当時の学長と「大学のパトロン」である当時の横浜市長の問答である。この当時の学長は、私が大学院生だったときには、いつでも純粋に科学を語り、分野外の学生にも物理学の面白さを伝える講義をしてくださった。この「純粋な科学者」に対して、当時の横浜市長は、うかつにも歴代市長が歴代学長を訪問したときに放つ「この大学でやっている研究は、横浜市に何の役に立つんですか?横浜市民の税金を使っているんだから、もっと、横浜市に役立つことをしてください」という台詞を言い放ってしまったのである。普通の学長なら、上に書いてある様な返答の常套句とともに「さらに、横浜市の役に立つ様にがんばります」などと返答するところだったろうが、この学長は「私たちが、人類がワクワクする様な自然の謎を解き明かし、その内容を綴った論文の所属欄にYokohamaって書いてあることが最大の貢献です」と答えた。
 このエピソードには、今の科学を取り巻く問題が集約されている気がする。こんな時代だからこそ、実験科学者は「実験事実に基づいたワクワクを提供するエンターティナー」でなけれなならないと思う。そうすれば、現在解離してしまっている「最先端の科学で出来ること(出来てしまうこと)」と「一般人の科学リテラシー(理解)」の間の溝を徐々にではあるが埋めていくことが出来ると信じている。そのときにきっと、皆さんが「基礎科学で生物の仕組みを理解する事」の大切に気付いてくれると思う(ちなみに、私も「綺麗だから」と言うだけで染色体の研究をしているわけではなく、「生物の仕組み」を理解するために研究している)。だから、私はこの本で自分の研究対象である「染色体のワクワク」を皆さんに届けようと思った。そうすれば、「鉄腕アトム」や「ガンダム」にワクワクした人々が「ASIMO」を走り回らせている様に、「キャプテン翼」のワクワクが日本のサッカーを世界レベルに引き上げた様に、「染色体のワクワク」でも何かが変わると信じている。故スティーブ・ジョブスは、「世界を変えられると信じて行動した人達だけが、本当に世界を変えることができた」と言っていた。だから、私も「それを信じること」から始めようと思う。

皆さんが「夜空の星を愛でる様に、染色体を愛でる」ことを願いながら

2012年12月8日
著者:長岐 清孝

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