故障した葉緑体を取り除く植物オートファジーの駆動プロセスを解明

[著者] Nakamura, S., Hidema, J., Sakamoto, W., Ishida, H., and Izumi, M.

[論文タイトル] Selective elimination of membrane-damaged chloroplasts via microautophagy.

[掲載論文] Plant Physiology, 177: 1007-1026. (2018).

[共同研究] 泉正範(東北大学・学際科学フロンティア研究所)

[内容紹介]
植物が成長するために欠かせない光合成反応は、「葉緑体」と呼ばれる植物細胞内の小器官で行われています。光合成は、その名の通り、太陽光のエネルギーを利用して行われますが、その一方で、葉緑体は、太陽光に含まれる過剰な光エネルギーによるダメージを常に受けています。人間で例えると、日焼けの原因となる紫外線が有害とされるイメージが強くありますが、植物では、紫外線に加え、同じく太陽光に含まれている可視光(強光)も葉緑体の主なダメージ源になっています。このようなダメージは、乾燥や高温、栄養不足といった他のストレスが加わると劇的に深刻化することが知られており、そのような複合ストレスが世界の作物生産量を大きく減少させているという報告もあります。よって、植物の光ストレス耐性機構を詳細に解き明かしていくことは、今後ストレス耐性の高い作物を作出していくためにとても重要です。
光ダメージを受けた植物の葉では、「オートファジー」と呼ばれる機構で葉緑体が積極的に消化されることが知られており、この現象は葉緑体の英語名chloroplast(クロロプラスト)のautophagy(オートファジー)という意味で、chlorophagy(クロロファジー)と名付けられています。今回の研究では、「クロロファジーが起こるプロセス」の詳細な解明に挑みました。その結果、強い光ダメージを受けると、一部の葉緑体が大きく膨らむことを発見し、これは葉緑体を取り囲む膜(包膜)がダメージを受けることで、葉緑体の中と外の浸透圧バランスが崩れてしまっていることが原因であることを証明しました。
また、時間変化を追った顕微鏡観察によって、膨らんだ葉緑体だけが選び出され、液胞と呼ばれる不要物を消化する細胞内器官に運ばれる過程を捉えることに成功しました(図2)。その過程は、これまで植物で観察されていたオートファジーのプロセスとは異なり、液胞の膜そのものが分解物を外側から包み込む「ミクロオートファジー」と呼ばれる現象に似た新しいプロセスであることが分かりました。以上の成果は、クロロファジーがダメージを受けた葉緑体だけを選び取って除去している過程を初めて明らかにしたものです。
本成果は「オートファジーが壊れた葉緑体だけを選び取る何らかの仕組みを持っていること」を強く指し示しています。今後その仕組みの詳細なメカニズムを明らかにすることができれば、オートファジーを制御し植物体内での葉緑体の新陳代謝をコントロールすることで、環境ストレス耐性や作物生産能力の向上を図ろうとする研究を展開することができると期待されます。本研究は、東北大学との共同研究により行われました。(文責 光環境適応研究グループ・坂本 亘)

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