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かくして植物は亜硫酸ガスに死す ―葉の小さな門番と有毒ガスの攻防―
[著者] Lia Ooi, Takakazu Matsuura, Izumi C. Mori
[論文タイトル] Sulfur dioxide-induced guard cell death and stomatal closure are attenuated in nitrate/proton antiporter AtCLCa mutants
[掲載論文] Plant and Cell Physiology
https://doi.org/10.1093/pcp/pcaf042
[内容紹介]
植物の葉には「気孔」と呼ばれる小さな穴があり,二酸化炭素の取り込みや水分の蒸発をコントロールしています.この気孔は同時に,大気中の有害なガスも取り込んでしまいます.たとえば,工場や火山活動から発生する亜硫酸ガス(SO₂)は植物にとって毒性があり,気孔から侵入します.
これまで,植物が亜硫酸ガスにさらされたとき,気孔がどうやって閉じて葉を守ろうとしているのかはよく分かっていませんでした.植物ホルモンや活性酸素といった物質が関わるのではないかと考えられてきましたが,今回の研究ではそれらは主要な要因ではないことが分かりました.
その代わりに,亜硫酸ガスにさらされたときに細胞の内部が酸性に傾くこと(細胞内のpH低下)が,気孔を閉じる重要な仕組みであることが示されました.さらに,細胞内の酸性度を調節する遺伝子に変異をもつ植物では,気孔が亜硫酸ガスに反応しにくくなることも確認されました.
この発見は,植物が有害ガスから身を守る仕組みの理解につながり,大気汚染が植物に与える影響を考える上でも大切な知見です.(文責 森 泉)
[使用した共通機器] LC―MS,オールインワン蛍光顕微鏡
関連リンク:環境応答機構研究グループ