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二酸化炭素を透過するアクアポリンと透過しないアクアポリン

[著者] Shaila Shermin Tania, Shigeko Utsugi, Yoshiyuki Tsuchiya, Shizuka Sasano, Maki Katsuhara, Izumi C. Mori

[論文タイトル] Amino Acid Substitutions in Loop C of Arabidopsis PIP2 Aquaporins Alters the Permeability of CO2

[掲載論文] Plant, Cell & Environment
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/pce.15635

[内容紹介]
地球上のほぼすべての生物は,植物の光合成により固定された化学エネルギーに依存して生きています.陸上植物が光合成するためには,外気のCO2が気孔から葉内に入り,さらに葉の内部を拡散して葉緑体へと到達する必要があります.葉内のCO2拡散過程における拡散コンダクタンスは葉肉コンダクタンスと呼ばれますが,葉肉コンダクタンスを決定する主な要因のひとつとしてCO2透過性アクアポリンがあります.
アクアポリンは,1992年に水チャネルとして発見・報告されました.その後,一部のアクアポリンがCO2チャネルとしても機能することが明らかにされましたが,現在に至っても,どのような構造上の違いがCO2透過性の有無を決定しているのかわかっていませんでした.
私たちは新たに8分子の植物アクアポリンのCO2透過性を調べ比較しました.その結果,ループCと呼ばれる構造に存在する二つのアミノ酸が異なると,アクアポリンのCO2透過性が大きく変わることを発見し,本論文中で報告しました.さらに,この実験結果を元に,アクアポリンの立体構造予測や進化系統樹解析を行いました.これらの解析から,小孔内の水フィルターの立体配置によりCO2透過性が変わることやH2OとCO2の両方を透過する分子種が進化的に古く,H2Oのみを透過するものは新しく出現したものであるなどの可能性が示唆されました.
本研究により,アクアポリン分子の構造とCO2透過性の関係が明らかになったことで,植物におけるCO2取り込み効率の分子基盤の理解が一層進展しました.今後は,光合成効率の向上を目指した作物の品種改良や,環境応答性の高いアクアポリン分子の探索に応用される可能性があります.また,他の物質輸送チャネルの機能進化の解明にも波及効果を持つと期待されます.
(文責 森 泉)

[使用した共通機器] 膜電位測定装置

関連リンク:環境応答機構研究グループ

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