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葉緑体膜を強化するタンパク質VIPP1とステイグリーン植物の生育向上

[著者] Lingang Zhang, Makoto Kusaba, Ayumi Tanaka, and Wataru Sakamoto

[論文タイトル] Protection of chloroplast membranes by VIPP1 rescues aberrant seedling development in Arabidopsis thaliana

[掲載論文] Frontiers in Plant Science, 7: 533. doi: 10.3389/fpls.2016.00533

[共同研究] CREST(戦略的創造研究推進事業)

[共同研究者] 草場信(広島大学理学研究科)、田中歩(北海道大学低温科学研究所)

[使用した共通機器] 光合成蒸散測定装置、共焦点レーザー走査型顕微鏡、DNAシーケンサ

[内容紹介]

イネなどの1年生作物は穂ができて収穫の頃には葉が枯れて黄金色になります。これは葉が枯れることにより、光合成などで蓄積した養分を穂に供給するためで植物の持つ重要な生存戦略の1つです。このとき葉が黄色に見えるのは、枯れて養分が吸収される際に葉緑体にある色素クロロフィルも分解されるためです。

光合成のために光エネルギーを吸収するクロロフィルは葉緑体で集光アンテナを作りますが、遊離して存在すると植物にとって危険なため、不要なときは分解されます。またクロロフィルは葉が枯れるときだけでなく、種子ができるときも分解されることが知られています。突然変異によってクロロフィルが分解されない植物は「ステイグリーン」といって葉が緑のままになりますが、発芽時に子葉の成長が悪くなります。このため、クロロフィルの分解は葉における養分の再利用や発芽や種子の保存には重要であると考えられています。

今回私たちが行った研究では、モデル植物の1年生雑草シロイヌナズナで知られているnyc1というクロロフィル分解が起こらない変異体を使いました。この植物はクロロフィルが多いことで子葉の発達が悪く、植物の成長に影響が出てしまいます。ところがこの植物にVIPP1という、葉緑体膜を保護することが知られているタンパク質を過剰発現させると、ステイグリーンのままですが子葉の発達が正常に回復することがわかりました。過剰なクロロフィルにより障害を受けているのは葉緑体の膜であることがわかります。VIPP1タンパク質が膜の保護作用に重要であることは私たちが以前に明らかにしていますが、このタンパク質を使うことによりステイグリーン植物の生育不全を回復できることがわかりました。VIPP1タンパク質により葉緑体機能を向上させ、植物の生育を向上させる技術の開発が、今後期待されます。

(文責: 光環境適応研究グループ 坂本 亘)

関連リンク: 光環境適応研究グループ

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