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光合成と植物成長を向上させる葉緑体タンパク質VIIP1の発現によるストレス耐性

[著者] Zhang, L., Kondo, H., Kamikubo, H., Kataoka, M., and Sakamoto, W.

[論文タイトル] VIPP1 has a disordered C-terminal tail necessary for protecting photosynthetic membranes against stress.

[掲載論文] Plant Physiol., 171: 1983-1995.

[共同研究] CREST(戦略的創造研究推進事業)

[共同研究者]  片岡幹雄(奈良先端大学物質創成科学研究科)

[使用した共通機器] 光合成蒸散測定装置、共焦点レーザー走査型顕微鏡、DNAシーケンサ

[内容紹介]

「光合成」は植物が光エネルギーと水、二酸化炭素を使って有機物を合成する反応で、地球の大気環境を維持するとともに、食糧となる作物生産に直結する重要な化学反応です。岡山大学では基礎生命科学研究の最先端分野の1つとして光合成の現象解明、それらの応用を目指した世界をリードする研究を進めています。
資源植物科学研究所の光環境適応研究グループでは、モデル植物であるアブラナ科の雑草「シロイヌナズナ(補足参照)」を用いて、光合成を行う細胞内の「葉緑体」を維持する重要因子の解明を行ってきました。今回注目したVIPP1と呼ばれるタンパク質は、葉緑体の膜に凝集して結合し、光合成のエネルギー転換反応と水分解を行う光合成装置の維持にも重要であると予想されてきましたが、その詳細は不明でした。今回、このタンパク質を緑色蛍光タンパク質で可視化して細胞内での機能を明らかにし、膜が高温などでストレスを受けた際の修復に関与することを突き止めました。特に今回の論文では、高温ストレスからの回復にVIPP1の高発現が効果を示して20%程度の阻害緩和作用があることがわかり、さらに、その緩和作用にはVIPP1のカルボキシル基末端側にある天然変性性を持った領域が重要であることを明らかにしています。大腸菌などのバクテリアにあるVIPP1様のタンパク質にはこのC末端領域がなく、シアノバクテリアも含めた光合成生物のみがこのC末端領域を持つことから、この領域によって光合成膜の強化を進化的に勝ち取ってきたとも考えられ、タンパク質進化の興味深い一面とも言えます。VIPP1タンパク質を植物で恒常的に発現させることにより、発芽や初期成長が悪い植物の生育改善や、高温にさらした植物の光合成活性低下を2割程度、軽減させることができました。現在はモデル植物を使った結果ですが、今回の知見を作物で応用することにより、葉緑体機能の強化と地球温暖化などの気象変動に対応できる作物への利用が期待できます。

(文責: 光環境適応研究グループ 坂本 亘)

関連リンク: 光環境適応研究グループ

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