RNAサイレンシング欠損により誘導されるレオウイルスのゲノム再編成

[著者] Eusebio-Cope, A., and Suzuki, N..

[論文タイトル] Mycoreovirus genome rearrangements associated with RNA silencing deficiency

[掲載論文] Nucleic Acids Research 43, 3802-3813. doi: 10.1093/nar/gkv239

[使用した共通機器] 超遠心機、DNAシークエンサー

[内容紹介] RNAサイレンシングは、短鎖RNAが関与して遺伝子発現を抑制する仕組みです。この機構は広く真核生物に保存されています。トランスジーン、トランスポゾン、ウイルス感染に対する防御機構として働きます。まず、長い2本鎖(ds)RNAがダイサーと呼ばれるdsRNA特異的酵素による切断を受け、短鎖(si)dsRNAを生じます。そのうちの一方の鎖がAGOを主成分とするRISCと呼ばれるエフェクターに取り込まれ、ガイド役を務め、標的となるmRNAに向わせ、その分解あるいは翻訳抑制を担います。

筆者らは、3大樹病の一つクリ胴枯病の潜在的なヴァイロコントロール(ウイルスを用いた生物防除)因子の解析を進めてきております。レオウイルス科に属し、クリ胴枯病菌(子のう菌)の病原力を衰退させるマイコレオウイルスというウイルスもその中の1種です。レオウイルス科は最も大きな(色んな宿主に感染するメンバーを含む)科の一つで、15の属を持ち、病原としてまた基礎研究対象として重要なウイルスを含みます。科の特徴は、9−12本の分節dsRNAセグメントS1~S12)をゲノムに持ち、粒子は多重殻構造をとり、RNA合成工場と見なされる内殻にゲノムを包含することです。本論文では、マイコレオウイルス(MyRV1)のゲノム再編成がRNAサイレンシング欠損変異株で高率におこることを報告しました。ゲノム再編成は、RNA組換えの一種で、ゲノムの塩基置換を含む大きな欠失・伸長を指します。ウイルス進化の推進力の一つとなっています。

本研究の端緒となったのは、MyRV1と1本鎖RNAをゲノムに持つハイポウイルス(CHV1)が共感染したときに、やはり高率でMyRV1のゲノム再編成が起こるという現象の発見です。その後、このゲノム再編成を誘導する活性がCHV1の多機能性蛋白質p29にあることが明らかとなりました。CHV1 p29には、ウイルス蛋白質の成熟に関与するプロテアーゼ、病徴決定因子、ウイルス胞子伝搬促進因子、RNAサイレンシンング抑制因子としての活性が同定されていました。今回の研究は、p29の再編成誘導活性はRNAサイレンシングの抑制と密接に関連することを強く示唆しました。すなわち、クリ胴枯病菌のRNAサイレンシングの鍵遺伝子(dicer-like gene 1, dcl2; argonaute-like gene 2)の欠損株では、p29発現体よりもさらに高率でゲノム再編成が生じることが示されました。S1~S3というウイルス複製に必要なセグメントのサイズが2倍に伸長する再編成がおきていました。また、非常に興味深いことに、dcl2欠損株ではagl2欠損株に比べ、再編成が生じるスピードが速いことが示されました。

これらの結果は、ウイルスに対する免疫機構であるRNAサイレンシングがマイコレオウイルスのゲノムの安定性維持に転用されている可能性を示唆するものです。RNAサイレンシングの新たな、そして意外な機能の発見となりました。

(文 責:鈴木信弘)

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