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宿主ホスファチジン酸産生機構を利用した植物RNAウイルスの増殖戦略

[著者] Kiwamu Hyodo, Takako Taniguchi, Yuki Manabe, Masanori Kaido, Kazuyuki Mise, Tatsuya Sugawara, Hisaaki Taniguchi, Tetsuro Okuno

[論文タイトル] Phosphatidic Acid Produced by Phospholipase D Promotes RNA Replication of a Plant RNA Virus

[掲載論文] PLoS Pathogens 11(5): e1004909. doi:10.1371/journal.ppat.1004909 (2015)5)

[内容紹介]

多くの植物RNAウイルスは子孫ウイルスを生み出すために、宿主細胞中の生体膜上にウイルス複製のための「工場」を形成します。しかしながら、生体膜の主要な構成成分であるリン脂質がウイルス複製にどのように関わるのかはほとんど分かっていませんでした。本論文では、red clover necrotic mosaic virus (RCNMV)をモデルウイルスとして、ウイルス複製に関わるリン脂質を同定し、その機能解析を行いました。すると驚いたことに、植物リン脂質の約1%程度しか存在しないホスファチジン酸(PA)というリン脂質が、ウイルス複製を促進することが分かりました。興味深いことに、RCNMVはPA産生の鍵酵素であるホスファリパーゼD(PLD)をウイルス複製の場にリクルートし、高いPA産生を誘導しました。PAのウイルス増殖における詳細な機能解析を行った結果、PAはウイルス複製酵素タンパク質に結合しウイルスRNA合成活性を高める性質を持つことも分かりました。以上のことから、PLDを「ハイジャック」することによってPAに富んだ(ウイルス複製に適した)細胞内環境を創出するという、強かなウイルス感染戦略が浮かび上がってきました。これを逆手に取る(ウイルスがPLDを利用する機構を阻害する)ことができれば、有用なウイルス抵抗性作物の創成につながると期待されます。

なお、本研究は筆者が前職(京都大学農学研究科植物病理学研究室)在任中に行ったものです。

(文 責:兵頭究)

お問い合わせ先:植物・微生物相互作用グループ

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