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100年前に提起された、コムギの種子に色をつける遺伝子の正体に近づきました
著者] Himi E, Maekawa M, Miura H, Noda K.
[タイトル] Development of PCR markers for Tamyb10 related to R-1, red grain color gene in wheat
[掲載誌] Theor Appl Genet. (2011) Volume 122, Number 8, 1561-1576 DOI 10.1007/s00122-011-1555-2
[共同研究] 帯広畜産大学 三浦秀穂教授との共同研究
[共同利用機器] DNAシークエンサー、パーティクルガン
[内容紹介] 1900年の「メンデルの法則の再発見」からわずか5年後、コムギの種子色もまたメンデルの法則に従って遺伝することが発見されました。コムギの種子は「赤粒」と「白粒」とがあり、赤粒が優性で、この「種子を赤く(Red)する遺伝子」はR遺伝子として報告されました。小麦粉はパン、麺、お菓子などの材料になる主要作物であり、種子色はそのまま小麦粉の色に反映されることなどから、世界各国の研究者がこのR遺伝子について研究を行いましたが、R遺伝子の正体はなかなか解明できませんでした。その理由として、(1) コムギは異質6倍体という、異なる染色体のセットが3つあり、非常にゲノムサイズの大きな植物であること(植物研究でよく用いられるアラビドプシスの約100倍)、(2) コムギは栽培期間が長く基本的には一年に一度しか種子が取れないこと、(3) 種子色素を蓄積している「種皮」という部分は母親組織なので、種子色の遺伝子型は交配して得られた種子(F1)をまいて得られた次の世代(F2)についた種子の色からわかるので時間がかかること、などが原因でした(別ページのコラムも参考にしてください)。
本実験では、コムギの種皮に蓄積されている色素がフラボノイド系色素であることからフラボノイド色素合成に関わる制御遺伝子に着目し、myb遺伝子を複数単離しました。そのうちの1つであるTamyb10と名付けられた遺伝子はこれまで報告されているR遺伝子と染色体上の位置が極めて近いこと、また主に種子で発現し、このTamyb10遺伝子の配列に異常がある系統では種子の色に違いがあることがわかりました。さらにこの遺伝子を一過的に導入すると、葉の組織中に赤い色素が作られることから、このTamyb10遺伝子が種皮で色素を合成させる原因であり、これまで正体が明らかにされていなかったR遺伝子である可能性が高いことを示しました。
これまでコムギの種子色の遺伝子型を確認するには数年かかっていましたが、本実験では得られたTamyb10遺伝子の配列からマーカーを作成することで、R遺伝子型が幼苗の状態でわかるようになりました。本実験は長く謎だったコムギのR遺伝子の正体を解明するとともに、今後のコムギ育種にも役立つ結果となりました。(文責:ゲノム制御グループ 氷見).
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